小学生の頃、僕は岐阜県・飛騨に住んでいました。
海を見たことがなかった僕達兄弟に(岐阜県は海がないのです)父親が「海水浴に行こう」と誘ってくれました。
嬉しかったですね。兄弟3人は飛び上がって喜びました。
それまで水泳と言えばプールではなく近所の川で泳ぐのが通常だったのです。

 出かけたのは富山市岩瀬浜海水浴場です。
川で泳ぐのとは全然状態が違いました。
波がすごい、それに遠くまで砂浜が続いているのかと思ったら日本海はすぐに深くなっていて慣れない僕は驚きでした。
改めて海のすごさに仰天したものです。
クラゲがいたのにもまた驚き、ただただ海の大きさを実感しました。
翌朝、食卓に出たワカサギのフライの新鮮でおいしかったこと。



 その初めて見た海を、この目で確かめたくて出かけたのです。
46年ぶりです。夕方でした。暗くて寒い海には誰もいません。
砂浜の砂をじっと手で握りしめました。湿ってはいましたが思い出がよみがえってきました。
暗い海のはるか向こうに2年前他界した父親の像が浮かびました。

 童心に帰った僕は「お父さん」と呟いていました。
年甲斐もなく涙が頬を伝いました。