つい先日KADOKAWAから発刊された『保身』を読み終えました。
著者はというと…講談社「週刊現代」記者の藤岡雅氏。
サブタイトルはというと「積水ハウス、クーデターの深層」です。
 また隠蔽された「騙されるはずのなかった」地面師事件、積水ハウスで起きたクーデターの内実を明かし、我が国に漂流する企業論理にまでメスを入れた書といえます。
積水ハウスに27年社員として勤務し、この書に出てくる人たちを知っているが故に複雑な思いを感じざるを得ませんでした。

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 書の途中、僕をかつて東京に召集したかつての上司=山崎一二氏の名も出てきました。
魅力ある東京営業本部長でした。
山崎さんが名古屋の支店長時代に僕の上司となり人間的に魅せられました。
この人についていこうと思うようになりました。
山崎東京営業本部長を和田社長が後継者として考えていた真実も書かれてありました。
僕はかつての山崎本部長からの言葉を思い出しました。
「加藤、俺は和田さんから次だといわれている。俺がそうなったらお前も・・・・だ、わかったな。俺が後ろ盾になるから思い切って会社を改革してくれ!

 僕は東京営業本部で一番売上げ規模の大きな多摩支店を仰せつかりました。
年間売り上げ120億、3年間で僕は社員さんや取引業者さんの協力のもと、売り上げ規模を160億まで向上させました。
みんな本当に頑張ってくれました。
またシェアのアップにも注力したことを鮮明に覚えています。
 ところが上司であった山崎本部長が55歳の若さで癌でこの世を去られました。
突然の予期せぬ出来事に驚き悲しみました。
この時から僕の会社人生が豹変しました。
 また和田社長が後任として阿部俊則氏を指名したことからこの本の物語が始まるといっても過言でありません。

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 和田社長は会長職に就き、阿部氏が新たに社長としての職に就く形となりました。
そして突然にして起きた地面師事件、まさかと感じざるを得ない不可思議な事件でもありました。
 会長がこの事件の責任を取らせる形で社長を罷免しようとしたその時、逆に社長側から会長への反撃とでもいえる行動が起こります。
そして成り行きとして会長の突然の辞任、著者はそれは社長の「保身」によるクーデターだったといっています。

 和田会長も僕にとってはかつての上司でした。
随分と怖い存在ではありましたが、畏敬の念を抱いていた存在といってよいと思います。
ついていきたい、そう思わせる魅力ある上司でした。
決して人を褒めることのない人でしたがこの人のためにと思わせる素晴らしい人間性もお持ちでした。
和田さんが中部営業本部長時代、僕は春日井店長でプレイングマネージャーでしたが、僕のチーム9名の営業で1か月で17棟ほどの契約実績を上げて喜んで報告をしたことを覚えています。
何と返ってきた言葉は「おまえ一人でやったのか」でした。
決して「頑張ったなぁ」とか「よくやった」とか「ありがとう」といわれることのない上司でもありました。
それでも僕は和田さんが好きでした。
怖い存在でしたが、どこかで認めてくれているという実感をいつも感じていました。

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 この本は積水ハウスでおりしも勃発した現実を題材にしていますが、日本企業の持つ特殊性を露呈しているともいえそうです。
権力は腐敗します。絶対的な権力は絶対的に腐敗します。
組織の十字架を背負う立場の役職者に警鐘を鳴らす事件でもあったのではないかと感じざるを得ない部分もあります。

 僕が育った積水ハウスは田邊社長のもと、厳しいけれど楽しい会社でもありました。
田邊社長は僕たちにこう言われました。
「我が社には組合がない、労使関係などない、私と君たちは労労関係なんだ」と。
また自分の年収も多くもらっていない事実も明かされました。
 当時の積水ハウスはなんでこんなにというくらい営業力のある会社でもありました。
あいつらは狂ってる‥・と他社から言われるほどに仕事に懸命だった時代がありました。
そんな積み重ねから1兆円企業となり、全国のほとんどのエリアでシェアも第1位となりました。
まさに飛ぶ鳥を落とす勢いがあって24時間働いていた時代でした。

 今、コンプライアンスが叫ばれ、働き方改革で仕事の在り方が問われてきています。
最近の積水ハウスの国内における業績の推移は気になるところでもあります。
また加点主義から減点主義に評価対象が変わりつつあることには懸念も致します。
この本のタイトルではありませんが役職者たちが「保身」になるのではなく、もっと挑戦者としてこの国の住宅産業に携わっていただきたく希望します。

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 僕は今、新しい社長のもと再出発をした積水ハウスに対して期待をしています。
イクメン企業、素晴らしいじゃありませんか。
かつて自分と共に仕事をしたかつてのメンバーも、積水ハウスリフォームの社長や人事部長(執行役員)になってもいます。
彼らもまた素晴らしい人間でした。期待したいと思います。

 あたらしく積水ハウスの門をたたく学生たちが希望に満ち溢れ、仕事へのモチベーションが高い企業としてさらに伸びていってほしいものです。
 乗り越えるべきものをしっかりと乗り越えて積水ハウスが世界に羽ばたく住宅会社となることを積水ハウスOBとして、また積水ハウスのオーナーとして応援しています。