僕が住宅展示場の店長、つまりプレイングマネージャー時代の事。当時、毎年支店には新人が毎年数名入社してきた。恒例で新入社員歓迎会が開催されその中にA君という社員もいた。先輩社員が喜ぶ事を芸にして披露しA君はサービス精神が人一倍旺盛に見えた。僕にとって彼は営業としての大切なものを持っているという第一印象だった。ところがその後の彼の営業成績はパッとしない。1年に1~2棟の契約実績で、良い結果が出ないからどうしても直属の上長からの信頼が薄く、結局は人事の度に転勤対象となって次から次へと異動していた。

 彼が入社5年ほど経過して僕の店に入ってきた。その時僕は彼のダメ社員というレッテルを売れる営業にイメージチェンジさせようと思った。ところが懸命に仕事の一部始終をOJTの中で教えているつもりが実績に結びつかない。新人の時の印象は間違いだったのかと自分を疑いつつもあった。1年半あまりが経過して契約は半期に1棟状態が続いた。上司である支店長から僕にA君を異動させたいとの人事の話があった。業績が上がらないという理由からである。「申し訳ありません、せめてもう半年だけ僕の店に置いて下さい。必ず一人前にします。」新組織の人事表は既に刷り上っていたが無理を承知で支店長に懇願した。支店長は心の広い方だった。熱意は通じた。「わかった、やってみろ」と言って下さった。A君に事実を話した。「約束してくれ。必ず結果を出すんだ。」結果、何と翌月A君は5.5棟の契約を取って当月の支店NO1の実績を出した。支店長が「君の言う事を聞いて良かった」と僕に握手を求めた。この事がきっかけとなってその後A君はトップ営業マンへと変身していった。売れる為のきっかけは誰にでもある様に思う。